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震度だけでは分からない地震の特徴~同じ震度の地震でも被害が違うワケ~ | KKEの 企業防災・BCPコラム

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震度だけでは分からない地震の特徴~同じ震度の地震でも被害が違うワケ~

同じ震度でも建物被害が異なるのはなぜ?

2021年10月7日22時41分ごろ発生した千葉県北西部地震によって関東地方で最大震度5強の揺れが観測されました。東京23区で震度5強の地震が発生したのは約10年前に東日本大震災を引き起こした東北地方太平洋沖地震以来で、地震発生時は当時の記憶が蘇りました。東京都での震度は東北地方太平洋沖地震と大きな差はなかった一方で、幸いな事に建物被害は全壊建物0棟と、東北地方太平洋沖地震の建物被害(全壊建物数、東京都:17、千葉県:799)と大きく異なる状況でした。

この建物被害が少なかった要因はなんでしょうか?東北地方太平洋沖地震の際に、耐震性が極端に低い建物が被災して数が減った事も一因としてはありそうですが、もう一つの大きな理由として、地震の「揺れ方の違い」がある事が分かってきました。

震度は「人が感じる揺れの大きさ」を表す指標であるため、「人が強いと感じる揺れ方」=「建物が被害を受けやすい揺れ方」という関係は成り立たない場合が多い事が京都大学の境有紀教授の研究でも明らかになっています。人はガタガタと小刻みなリズムで揺れる時に強い揺れだと認識します。1往復の揺れに要する時間を周期と呼びますが、この周期で表現すると人が強い揺れだと感じる周期は0.1秒~1.0秒程度。一方、建物が大きな被害を受ける周期は「1.0~2.0秒」と少し遅いリズムであると言われています1)

地震を「周期」で分析してみると

そこで今回の地震を「周期」という観点で分析してみました。分析に使用した地震は防災科学技術研究所の強震観測網(K-NET, KiK-net)2)で最大の震度を計測した行徳観測点の観測記録を使用します。比較のために、同観測点で得られた東北地方太平洋沖地震の観測記録も使用します。2地震の震度、最大加速度の比較を以下の表に示します。震度は東北地方太平洋沖地震がやや大きく、最大加速度は千葉県北西部地震がやや大きいと言った関係で、この指標では2地震に大きな差はありません。一方、建物被害で見ると、行徳観測点が属する千葉県市川市では、東北地方太平洋沖地震では全壊建物10棟という被害がありましたが、今回の地震では全壊建物は無く、2地震で大きな差があります。

 

表 行徳観測所 の観測記録

地震 震度(計測震度) 最大加速度(gal)
東北地方太平洋沖地震 5強(5.0) 166.8
千葉県北西部地震 5弱(4.8) 179.9

出典:筆者作成

 

「周期」という観点で2地震を比較するために、加速度応答スペクトルと呼ばれる指標を用いました。加速度応答スペクトルとは、コンピュータ上で異なる周期を持つ多数の建物を同じ地震で一斉に揺らし、横軸に各建物の周期、縦軸に最大応答加速度(最大の地震力)の関係を表したグラフです。下図は、2011年東北地方太平洋沖地震を青線として、2021年千葉県北西部地震を赤線として重ねて作成しました。

まず、人が強い揺れだと感じる周期である0.1秒~1.0秒に着目すると、東北地方太平洋沖地震が全体的に大きい傾向にありますが、周期0.4秒前後では千葉県北西部地震が大きいことが分かります。

一方、建物が大きな被害を受ける周期である1.0~2.0秒を見ると、全周期で東北地方太平洋沖地震が千葉県北西部地震よりも2倍以上の大きさであることが分かります。この差が建物被害の大きな差に繋がっていると考えられます。

 

図 行徳観測波(南北成分)の加速度応答スペクトル

出典:筆者作成

 

このように、地震による建物被害を予測するには震度という指標だけでは不十分であり、周期という観点で見ることが重要であることが分かりました。東北地方太平洋沖地震が1~2秒の周期において最大応答加速度が大きくなる要因としては、地震の規模(マグニチュード)や震源までの距離、地震が伝搬する経路といった地震の条件だけでなく、建物直下の地盤の影響も無視できません。(軟弱な地盤が厚く積もっている地盤ほど、1~2秒の周期が増幅しやすい傾向にあります。)

今回の調査で分かった事をまとめます。
● 震度は人が強い揺れを感じる周期で決めており、建物が大きな被害を受ける周期とは異なる。そのため、震度だけで建物被害を精度良く予測する事は難しい。
● 東北地方太平洋沖地震と千葉県北西部地震では建物が大きな被害を受ける周期での最大応答加速度(地震力)に大きな差があり、その差が建物被害の差に繋がっている可能性が高い。
● 地震対策検討のために、今後発生が予測される地震(首都直下地震等)で建物被害を予測する場合は、応答スペクトル等を用いて「周期」という観点で分析する事が重要。その際に、建物直下の地盤の影響も無視できない。

参考文献

1)  境有紀のホームページ  http://sakaiy.main.jp/j sd.htm
2 ) 国立研究開発法人防災科学技術研究所 強震観測網(K-NET,KiK-net)https://www.kyoshin.bosai.go.jp/kyoshin/

2021年10月 構造計画研究所 防災ソリューション部 吉松慶

 
           
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