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【BCP基礎講座⑤】 教育・訓練のあり方 | KKEの 企業防災・BCPコラム

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【BCP基礎講座⑤】 教育・訓練のあり方

今回は各企業の防災・BCPに関する教育・訓練のあり方について考えていきたいと思います。防災・BCPの取組み自体について各社大きな差異があるように、教育・訓練についても確実なステップアップにつながる取組みをしている企業もあれば、そもそも取組みが弱い場合や、取り組んでいるもののその内容に潜在的な課題がある場合も散見されています。まずはどこに問題・課題があるかという点から探っていきましょう。

問題の所在

防災・BCPで最も重要な視点は、大規模災害等が発生した場合に、従業員や施設設備に関する人的・物的被害を最小限度に止め、同時に自社の事業について、できれば中断することなく、万が一中断した場合もいち早く復旧できるように平時から備え、有事に速やかに対応するために何が必要かという点です。換言すれば、実戦で役に立つこと、実効性あることが最も求められているのです。

従って、極論かもしれませんが、仮に自社で防災計画やBCP(事業継続計画)を文書として策定していなかったとしても、前述の視点に立った対応ができれば問題ないということです。

しかし現実の各企業においては、公的ガイドラインへの過度の依存、内部人材の育成不足などを原因として、御作法通りに精緻に計画を策定しても、実戦では使えない、訓練でも活用できない状態の計画を保有している場合も見られています。このような計画類は、往々にして難解な計画になっており、同時に組織内浸透にも課題を抱えている状態になっています。

防災・BCPに関する研修について

防災・BCPの教育・研修(関係者への基礎情報などのインプット)については、まずは、これらの実務的課題を解決する方向性で企画し運用することが求められます。

研修対象としては、基本は全従業員ではあるものの、まずは経営層を含む組織管理側へのインプットが重要です。経営層には防災・BCPの重要性と、同業他社を含む他企業の取組状況をしっかり見せつつ、自社としてどのような課題があるかを認識させ、平時から課題解決に向けてどのように通常業務を改善していくかという点で「基本的な方向性を定める」という自身の役割を再認識させることが重要です。管理職層については、防災・BCPに関する全社的な動きを共有すると同時に、自部門のBCPが真に機能する内容になっているかを自身で検証する能力を習得させる必要があります。

研修内容については、常に実践的内容であることを心がけましょう。社内で理解しやすいか、そのまま実務に活用できるかという視点で、インプットすべき内容を整理していきましょう。実践的であるという点では他社事例や過去事象の対応例など、事例演習を中心に考え方を学び、形式論ではなく、自社の課題・問題を解決するという視点での学びが重要です。

またインプットする内容は、基本は押さえた上で、分かりやすさ優先で構成していただくべきと思います。例えば、感染症対策を念頭においたBCPについて「従業員一人一人の感染症対策がBCPになるのだ」という考え(表現)に対し、「いやいいや、BCPは事業に関する事前対策・事後対応なので、感染予防策や感染拡大防止策はBCPではない」という些末な指摘をする方が実際にいます。この指摘は御作法的には正しいですが、実務的には疑問符がつくのです。

例えば地震災害の場合、どのように精緻にBCPを策定しても、当該地震で従業員が被災したらBCPを発動する担い手を失うように、感染症においても従業員が罹患しないことが自社の事業継続にとって最重要事項となるのです。これは一例ですが、緻密に組み立てた結果、ピサの斜塔のように微妙にずれてしまわない様に、御作法の議論はほどほどにして、本質的な議論、有益な議論、実務上の課題解決に直結する取組みがますます重要になっているのが現在の状況と思います。

防災・BCPに関する訓練のあり方

訓練については、はじめは台詞あり(シナリオ事前提示)の訓練からスタートして基本的な動作を確認しつつ、早い段階でブラインド型訓練に移行することが求められます。

そして訓練についても実効性の問題が重要で、訓練対象者と訓練テーマ(訓練内容)が常に符合するように企画して頂きたいと思います。

本部長(社長)を含む経営層を対象とした対策本部図上訓練では、経営判断となるようなBCPの発動の要否、代替生産なのか現地復旧戦略を採用するのかなどの「大きな決断」をする場面設定が必要ですし、事務局を対象とする訓練では、情報の収集・整理・分析を的確に実行し対策案の立案につなげることができるかがポイントになるのです。

しかし現実に実施されている訓練の多くは「拠点が被災した!」「けが人の救護が必要だ!」「有害物質が流失した!」といったワンパターンの内容で対象者を整理することなく訓練実施している場合も多く「実効性」という観点でまだまだ改善の余地があるように感じています。

上場企業における注意点

防災・BCPの取組みは、21世紀的な整理でいうと企業のサステナビリティの問題です。そして特に上場企業においては、本年6月のコーポレートガバナンス・コード改訂を強く意識して教育・訓練も企画する必要があります。

同コードでは「上場会社は、社会・環境問題をはじめとするサステナビリティを巡る課題について、適切な対応を行うべきである。」と規定し、「取締役会は、気候変動などの地球環境問題への配慮、人権の尊重、従業員の健康・労働環境への配慮や公正・適切な処遇、取引先との公正・適正な取引、自然災害等への危機管理など、サステナビリティを巡る課題への対応は、リスクの減少のみならず収益機会にもつながる重要な経営課題であると認識し、中長期的な企業価値の向上の観点から、これらの課題に積極的・能動的に取り組むよう検討を深めるべきである。」としています(※下線は筆者が追記)。

防災・BCPに関する取組みはより「実効性」があることが求められています。特に上場企業については、実効性があることと同時に、今まで以上に「説明責任」が要請されています。「対外的に開示した内容」と「実際の自社の災害対応に関する事前対策のレベル・品質」に差異がないように、また株式市場や株主からの要請や、監査役・社外取締役からの指摘に真摯に応えていくためにも、教育・訓練の再構築と実効性の向上は引き続き重要かつ喫緊の課題となり続けるでしょう。

 

森総合研究所代表・首席コンサルタント 森 健

 
           
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