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防災・BCPと説明責任~BCPウォッシュ(BCPが機能しているという偽装)にならないために~ | KKEの 企業防災・BCPコラム

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防災・BCPと説明責任
~BCPウォッシュ(BCPが機能しているという偽装)にならないために~

「仕事は客のためにするもんだ。ひいては世の中のためにする。
その大原則を忘れたとき、人は自分のためだけに仕事をするようになる。
自分のためにした仕事は内向きで、卑屈で、身勝手な都合で醜く歪んでいく。
そういう連中が増えれば、当然組織も腐っていく。
組織が腐れば、世の中も腐る。」(池井戸潤作「ロスジェネの逆襲」より)

BCPのお客様・ステークホルダーは?

私は、アニメ「宇宙戦艦ヤマト」に大きな影響を受けて育ちましたが、ドラマ「半沢直樹」にも共感するところが多く、主人公が同門・同世代ということもあり、コロナ禍1年目の2020年7月から9月にかけての放送時期は、とても楽しみに放送日を待っていました。

ヤマトの沖田艦長も、半沢直樹もその正義感の強さは相当なものですが、仕事に対する姿勢も似通っているのではと個人的には感じています。冒頭のセリフは半沢直樹が自身の「仕事に対する信念」を部下に問われた際の答えですが、これは、今の日本にとても重要な示唆を与えていると思います。

BCP(事業継続計画)は、従業員の安全を守り、施設設備の被害軽減と早期復旧を図り、強靭なサプライチェーンを構築し、自社への財務的影響を最小限度に止めるための計画です。よって、誰がBCPにとってのお客様でありステークホルダー(利害関係者)かという視点でいうと、自社の従業員であり、仕入先であり、顧客であり、近隣住民であり、株主・投資家であるといえるでしょう。

BCPにおける説明責任の重要性

では、これらのステークホルダーを念頭においてBCPを策定し、維持管理をする上で、何が重要になるのでしょうか。

これは筆者なりの整理ですが、重要な視点の一つは「説明責任」であると思います。それも、言語明瞭・意味不明な議会答弁のような説明ではなく、またブラック企業に見られるような「トップがこれでいいと言ってるんだ!」といった専制国家的な説明でもなく、さらにいうと「大手のコンサルに依頼したから、我が社のBCPは大丈夫なのだ」という権威主義的かつ思考回路停止型の説明では全くお話になりません。

説明責任のポイントは、まず事実に基づくことであると思います。BCPで規定されている内容にそって、各職場も機能しているという事実。本当に実効性のあるBCPとして、これまた実効性のある訓練を通じて検証ができているという事実。全て事実に基づく説明でなければ意味がありません。

もうひとつのポイントは論理です。論理的な説明であれば、全てのステークホルダーの理解は得られるでしょうが、詭弁を弄するような危うい説明を各種開示資料で採用しているケースも潜在的にはあるのではないでしょうか。

そもそも「普段の仕事に論理がないから、平時から説明責任を果たせていない」という状況に陥っているのではないかという点も含め、特に経営者は自己検証が必要だと思います。

見えないものや本質を、どれだけ大切にできるか?

一方で、説明責任というと、腕の悪いコンサルや似非(エセ)有識者たちは、すぐにやれ数値化だ、見える化だと騒ぎたて、自身の実務経験不足や問題解決能力不足を誤魔化そうとします。

計画、仕組み、指標、組織機構、制度・・・。確かにこれらのせい(責任)にするのは、分かりやすいし簡単です。何か問題が起きると、仕組みが悪い、計画が良くなかったなどという責任転嫁祭りが官民問わず、今の日本では多く発生しています。

しかし皆さん、本当にそうでしょうか。計画を動かし、仕組みを運用し、組織を形作り、制度に魂を込めるのは、そこで働く人々です。見える化しにくい、従業員の考え方や行動特性、仕事に対する姿勢、安全管理やハラスメント防止の状況など組織の風土、統制環境なども同様に重視し、改善の対象として捉えていくことこそが、計画や仕組みの実効性向上につながるのではないでしょうか。

表層的な議論に逃げるのはとても危険です。最近「SDGsウォッシュ」という言葉がよく聞かれますが、この言葉は、サスティナビリティについて実はそこまで取り組んでいないのに、開示内容だけ見れば表面的には取り組んでいるように見せかけることを指す言葉です。

気候変動に対処する経営戦略の一内容でもあるBCPに関する取組みは、特に上場企業にとっては、コーポレートガバナンス・コードの要請に正しく応えることにもつながり、株主・投資家との信頼関係を維持・強化するための最重要課題の一つです。

よって、BCPに関しても表面的に取り繕う「ウォッシュ」状態は許されないのです。

本当の敵は「社会的ジレンマ」

山岸俊男(著)の「安心社会から信頼社会へ」によると、「お互いに協力しあえば皆が利益を得ることができるのに、それぞれの人間が自分の利益だけを考えて行動すると誰もが不利益を被ってしまう状況」のことを社会的ジレンマと呼ぶそうです。

現実社会で詭弁を弄して説明責任を果たそうとしない者たちは、半沢直樹が教えてくれているように、自分のために仕事をしている、つまりステークホルダーを無視したバランスの悪い思考回路で仕事をしていると言えます。その結果、その仕事自体が醜く歪んでしまっていて、そもそも論理的に説明できなくなってしまっている状態なのです。

これを論理的に説明するとすれば、「自分の立場や利益のために仕事しているのです」、あるいは「一時的に凌げれば、誤魔化せればいいや」という回答になるのでしょうが、まさかこのような答えをもって説明責任を果たしているとはいえないので、何らかの無理ある歪んだ説明になってしまうのではないでしょうか。

経営者の皆さん、BCPに関して、真に説明責任を果たしていますか?

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

 

以上

森総合研究所 代表・首席コンサルタント 森 健

(参考文献)
「ロスジェネの逆襲」 池井戸潤・著
「安心社会から信頼社会へ」 山岸俊男・著

 
           
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