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危機管理の本質① ~災害対策本部長(指揮官)心得~ | KKEの 企業防災・BCPコラム

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危機管理の本質①
~災害対策本部長(指揮官)心得~

ちょっとネットサーフィンすれば多くの知識・ノウハウにたどり着き、AIに依頼すればちょっとした文書はたちどころに書いてくれる・・・という時代になりました。

しかし災害時の危機管理の場面では、人が指揮を執り、人が決断し、人を護ることが求められ、そこには見える化できていない様々な要素が混在しています。

今回は、なかなか普段は語られることのない、知識偏重ではない考え方、思考回路、行動様式、価値判断、平時の習慣などの視点から、災害危機管理の主役である災害対策本部の本部長(指揮官)としての心得について、できる限り平易に整理してみたいと思います。

災害対策本部長は災害危機管理の総責任者

組織的な責任関係があいまいになりがちなことから、よく日本の組織は「集団的無責任体制」であるなどと揶揄(やゆ)されてしまいます。

確かに現代日本の各種組織は、覚悟や潔さがないですね。責任とはその英訳が示すように「対応すること」なのに、誰も対応しないで保身に走るケースが頻繁に見られます。とにかく逃げ足は速いし、嘘やごまかし対応に躊躇がない方が増えたように感じられます。コンプライアンスの意味は法令遵守ではなく、社会的要請に適応することなのに、最低限のルールしか守らないケースや、ルールすら守れない組織が増えました。平時ではこのような組織は「あの会社はブランドだけで、中身はだめだなぁ」とか、「ホワイト企業って言われてるけど、まぁまぁブラックやな」とネット上で言われていますが、当の本人は何も感じていないという状況です。

しかし危機が発生し災害対策本部を設置した際には、この集団的無責任体制を採用することは一切許されません(本来は平時もそうです)。

災害対策本部長(指揮官)にはすべての権限が委ねられ、なおかつトップダウンの意思決定が求められていきます。災害対策本部長は逃げることも、誰かにスルーパスを出すことも、できません。責任を全て負うのが災害対策本部長で、その背後には誰もいないのです。

災害対策本部長として有事の覚悟

そのような災害対策本部長ですから、組織を動かしていくには、平時にも有事にもいくつか意識すべき心得的なもの、心構えのようなものがあると思います。

例えば有事には、次のような思考回路や考え方が必要ではないでしょうか。発災直後から時系列に整理していくと、

1)まず深呼吸して気持ちを落ち着ける
2)現在の状況を大雑把に把握する
3)最初の指示を決める
4)指示を出す前に、念のため5時間後や10時間後の状況をイメージする
5)そして大きく、あたたかい声で最初の指示を出す

というのが求められる対応のイメージだと思います。

また、有事における災害対策本部長の思考回路は、複眼的であるべきです。喫緊の課題を解決しつつ、同時に近未来に発生する各種事態を想定して、その対応準備も並行して行うことが求められていきます。たとえば、安否確認を指示しつつも、おおむね4日目以降に展開する事業継続のことを視野に入れてシミュレーションを開始しているような、したたかな思考回路が必要です。

さらに、組織全体に対するメッセージというか、災害対策本部長自身の覚悟を伝えることも求められます。それも悲壮な覚悟ではなく、必ず明るい未来がまた来るという意図的な楽観主義というか、私(災害対策本部長)はこのような逆境でも「絶対に諦めないぞ」という強い意思を、メンバー全員に伝え、組織を落ち着かせつつ、士気を維持する必要もあると思います。

災害対策本部長の平時の心得・心構え

これらは必要な心構えのごく一部ですが、有事にこのように考え、自然に振る舞うためには、平時の行いが重要です。平時から組織のトップとしての修練を積むというか、心の洗濯を定期的にするような努力は必要なのではないでしょうか。

具体的には、

1)誰に対しても公平・公正に接する。職位の上下や取引上の関係を濫用・乱用しない
2)全方位で説明責任を果たす。根拠のない指示命令はそもそもコンプライアンス上疑義があると心得る
3)自分自身の権限を適正に、抑え気味に使う。フラットなコミュニケーションを重視する
4)判断にあたっては、私心は入れず、是々非々で判断する。論理的・合理的に判断する。恣意的な判断を徹底的に排除する
5)コミュニケーションを重視する。事前に話せる内容は話しておく。関係者をびっくりさせない。常に伝えるべき内容は積極的かつ早めに伝える。情報を囲い込むことによって自身の価値をあげようとする愚は行わない

これらのことを羅針盤にしていくことが大切だと筆者は考えています。

とここまで書いてきて思いました。これって、ブラック企業やブラック職場のトップの真逆をいけということなのだと。そうです。平時も有事も、自分自身の仕事に正面から向き合い、逃げず誤魔化さず、常に説明責任を大切にするというよき経営者が、実はよき災害対策本部長ということなのでしょう。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

 

以上

森総合研究所 代表・首席コンサルタント 森 健

 
           
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