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首都直下地震とBCP②~本当にそのBCPは機能するのか?~ | KKEの 企業防災・BCPコラム

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首都直下地震とBCP②
~本当にそのBCPは機能するのか?~

BCPコンサルタントとして、筆者は、今日のサブタイトル「本当にそのBCPは機能するのか?」という問いを投げかけ続けて、今年で9年目に入ります。

コンサルタントになる前の実務家の時代から、自分自身に課す危機管理上の問いは常にこれで、「実戦で役に立つか」という点を追究してきました。

2005年に内閣府の「事業継続ガイドライン」が策定され、様々な災害やパンデミックを経験した我が国では、BCPという言葉は一定の市民権を得たものの、一方で最近は様々な修飾語が付されてしまい、本質的な議論とは何かと心配に感じることが多くなっています。

高度化、実効性の向上、DXの推進、ESGとの関係整理、結果事象の推奨・・・というように、一見とてもハイレベルな議論をしているように見えますが、よく確認してみると、現場で使えない独特の個性的な理論を振り回しているだけのことが意外と多く、BCPの本質である「事業継続」そのためにどう備えるかという方向からズレてしまっていることが多いように思います。

今回のコラムでは、「本当にそのBCPは機能するのか?」という問いに対して、首都直下地震が発生した場合の例を交えて解説していきたいと思います。

 

首都直下地震発生時の初動対応における課題はないか?

例えば、首都直下地震が発生した場合の初動対応について。オンラインで対策本部運営を試みることを推奨する向きもありますが、本当にこの対策本部、機能するのでしょうか。

対面式の対策本部の練度が上がっていない段階で、やたらとDXに走ることは、砂上の楼閣を作ることにならないかと心配になります。対面ですら情報の迅速な整理・分析・共有ができないのに、オンラインで可能なのでしょうか。同じ地図を見ながら、関係者がひざを突き合わせ議論した経験がないのに、テレワークのみで組織の難局を乗り切れるのでしょうか。

危機管理体制をいかに確立し、機能する指揮命令系統を活用して、防災活動を早く事業継続活動に切り替えるべく、スピード感をもって対応していくことは、決して容易なことではありません。まずは対面式の図上訓練を繰り返して組織の練度を高め、戦略的な組織運用とは何かについて習熟し、次善の策としてテレワーク式の対策本部運営も時々練習しておくという考え方のほうが、現実に即していると思うのですが。

 

首都直下地震発生時の本社の代替拠点は用意されているか?

首都直下地震発生時の本社の代替拠点についても同様で、未だに名ばかり代替拠点となっているケースが散見されます。

製造拠点における事業継続の基本は「現地復旧」つまり「被災後にいち早く元の状態に戻すこと」です。そのために、被害を最小限度に止めるための事前対策と、被災後に迅速な回復を目指す復旧対策を用意しておくことが大切です。

本社機能の場合も同様で、まずは現地復旧戦略を中心に据えるべきで、一部の大企業を除き、他拠点に本社の代替機能を有するような人的・物的投資をすること自体、決して簡単ではないので、まずは現地復旧のための備えを強化すべきです。

その上での代替戦略ですが、この場合も、製造拠点の代替は、臨時生産訓練のみではやや実効性が弱いのと同様に、本社の代替も、可能な限り、平時から本社業務・機能の一部を担わせておき、災害時にその守備範囲を一時的に拡大していくという方法が現実的です。

よって、例えば大阪の関西支社に管理系のスタッフが皆無であるにも関わらず、ここを代替拠点にすることは現実的ではありません。また同時被災しないことを過度に重視し、あまりにも遠距離の代替拠点設定をすると、被災直後の社会状況混乱下で、誰一人代替拠点に移動できず、結局、危機管理体制を組めなかったということになってしまいます。

例えば東京に本社があるのなら、埼玉県南部の自社拠点を「代替拠点」とし、初動の段階では当該代替拠点の常勤スタッフ(本社部門と同種部門の所属者が望ましい)がミニ対策本部を運営し、次に、必要に応じて本社常勤者が埼玉に移動し、当面の間ここから指揮をとるという方法が、いろいろな意味で現実的です。

 

首都直下地震発生時に本社部門のBCPは機能するか?

BCPそのものに関しては、首都直下地震の際に、都内に本社を置く企業各社の最大の課題は、従業員の一斉帰宅抑制(籠城戦)とともに、本社部門のBCPの活用にあります。

本社部門のBCPの問題は、具体的には会社機能の維持を担う各管理部門が、自部門の通常業務のうち特に優先的に対応・継続すべき業務を、災害時にも継続できるかという点にあります。この考え方に基づき、管理部門ごとに課題・ボトルネックを洗い出し、対策を整理してBCPを策定するということが、多くの企業で行われてきました。

しかし、コロナ禍のオミクロン株による第6波対応を振り返れば分かるように、地震と異なり「施設・設備に対する被害がない」リスクである感染症に対しても、多くの会社でBCPが機能しなかったのはなぜでしょうか。

計画自体の不備ももちろんあったかもしれませんが、他の要因としては「浸透」や「実効性」そして「バックアップ体制」という点がキィワードとして想起されてきます。「担当者Aさんの業務はAさんが居ないと分かりません」という状態を許容してきた企業は、どんなに複雑で精緻なBCPが策定してあったとしても、スムーズな対応は難しいでしょう。逆に、BCPを策定していなかった企業だとしても、相互に思いやりのある風通しのよい社風・統制環境で、担当相互に普段から助け合うことが習慣化されている場合は、2交代制に移行することは容易であったと思います。

やはり、新しい概念やマジックワードに振り回されることなく、BCPの本質は「準備」にある点を忘れずに、日々備えを怠らないという姿勢が大切なのだと思います。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

 

以上

森総合研究所 代表・首席コンサルタント 森 健

 
           
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