今回も、防災・BCP・リスク管理の専門家の森健さんによる連載記事をお届けします。
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経営は本当に難しいと思います。小なりといえども個人事業主・フリーランスとして10年間経営判断を繰り返してきた経験から、本当にそう感じます。一方で、10年間の経営における実戦経験から、またBCPやリスクマネジメントのコンサルタントとして、数多くの素晴らしいクライアント様とのご縁を頂戴したことから、見えてくるものも少なからずありました。
今回は「経営層にとっての事業継続とは」と題して、どうしてBCPに取り組むことが重要で、かつ正面から向き合った結果どのような素晴らしい効果をもたらすのかについて、実例も意識しつつ考えていきたいと思います。
「日本の弱点」と向き合ってきた10年間
かの諸葛孔明は、倭国攻略のポイントを弟子に問われた際に「内部分裂させてから攻略すればたやすい」と答えたといいます。日本人の他者への信頼度は一般的なイメージよりも低く、日本の多くの組織は、山岸俊男先生が説かれる「社会的ジレンマ」の状態(自分だけ良ければよいと考えてしまうと、その個人は一時的に良くても、属する社会や組織が機能低下していく現象)の状態になっていることが多いのではと筆者は危惧しています。
また「危機管理」という言葉のワードメーカーである佐々淳行先生は、日本的組織共通の弱点は戦略性の低さにあり、戦略が間違っていたり、戦略がなかったり、戦力・資源を小出しにしたり(戦力の逐次投入)、兵站・後方支援を軽視することが、日本の典型的な負けパターンだと生前に喝破されていました。
今、日本企業の多くが抱える「ガバナンスの機能不全」の問題は、あるいはこの辺りに真因があるのではないでしょうか。何でも「知識、理論、制度・仕組みの責任」にしてしまうような思考回路から脱却し、表面より本質、権威より実質、形式より実効性に焦点を変えていくことこそが、ガバナンス強化に直結するのではと考えています。
国際競争力再生のカギは「BCP、再起動。」にあり!
筆者が精力的に取り組んできたBCPの問題は、これらの課題群と密接に関係しているというのが、この10年の正直な所感です。そして、各企業がガバナンスを強化し、個々の競争力を再生し、2025年時点で35位にまで下がってしまった日本国の国際競争力再生への近道が、BCPその他の全社的な制度の再起動にあると思います。
BCP策定の過程においては、正しくBCPを理解し、各職場や各工程ごとの個別具体的なリスク・課題(ボトルネック)を洗出し、これらにどのようなリスク対策をいつまでに実施するかというリスクの維持管理(リスク・コントロール)ができるような仕組みづくりをすることになります。
その際に各職場単位で多く挙げられるリスクの一つとして「業務の属人化」があります。これに対する対策は、バックアップ体制の強化(助け合う職場の実現)であり、これによりワークライフバランスも向上する方向に転換していきます。
各職場・各工程で列挙されたリスク・課題を、中間的な組織(「本部」や「事業部」など)単位で一旦まとめ、さらには全社的に体系的な整理を施し、改めて経営にこれを示した上で、優先順位を「経営判断」として下し、各事業年度の予算確保に反映させてダイナミックにリスク対策を実行していくことも、事業継続に関する平時の取組みです。これこそが戦略的な経営そのものではないでしょうか。
形骸化した全社的な仕組みに「新たな命」を吹き込め!
ガバナンスに問題を抱える日本企業(特に上場企業)では、BCPに限らず、全社的な仕組みが形骸化し、実効性を失い、その制度や仕組みを表面的に維持することが目的になっているように感じます。
筆者はプロのコンサルタントになってからの10年を総括し、次の10年の具体的な目標として、次の5本柱を掲げました。
「マネジメント、改革。」
「戦略的、リスクマネジメント。」
「BCP、再起動。」
「ハラスメント、撲滅。」
「コンプライアンス、浸透。」
抽象論では会社も従業員も変わりません。具体性と実効性がキーワードです。具体的な改善を積み上げていくことでしか、ガバナンスの強化につながっていきません。ガイドラインやソフトローに形式的に従い、文面と数値のみ美しい統合報告書を策定しても、実態が伴っていなければ意味はなく、自然災害にも対抗できず、グローバル競争にも負けてしまいます。
そうならないように、BCPをはじめとする全社的な仕組みを形骸化させず、人・運用面を強化し、机上の空論にならないように日々点検することが、実は経営の重要な要素ではないかと思うのです。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
次の10年も引き続きよろしくお願いいたします。
以上