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予算編成と防災・BCP ~「安物買いの銭失い」にならないために~ | KKEの 企業防災・BCPコラム

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予算編成と防災・BCP
~「安物買いの銭失い」にならないために~

今回も、防災・BCP・リスク管理の専門家の森健さんによる連載記事をお届けします。

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1月から新事業年度を迎える企業の皆様は、そろそろ次年度予算のご相談が始まるのではないでしょうか。今回は、予算確保において劣後されがちな防災・BCPに関連する予算について、どのような課題感が各企業に潜在しているのか、その課題を克服して、リスクに見合った対策(予算・コスト)を目指すためにはどのような視点が大切かについて、考えていきたいと思います。

「内製化大好き経営層」との戦い

建物やユーティリティー対策などのいわゆる「ハード対策」は、なかなか内製化はできませんので、最初から「どこまでコストをかけるのか」という論点になります。一方、防災マニュアルやBCP(事業継続計画)の策定・見直しについては「内製化のカベ」との戦いがまず勃発します。

もちろん、コンサルタントという仕事が大衆化し、玉石混交状態になっている以上、外注に出しても問題が解決しない場合も多くありますので、なかなか悩ましいところです。コンサルタントの選び方のポイントは「実務経験の有無」に尽きると私(筆者)は考えています。「知識の転売ヤー」に自社の未来を任せることは、逆にリスクでしかありません。表面的ブランドに幻惑されず、役に立つ相手をしっかりと選びたいものです。

しかし目の前に「日本一のコンサルタント」が居たとしても、フィーを支払えなければそのノウハウを活用できません。最も厄介なのは、社内に一定程度存在する「内製化すればいいではないか」という勢力なのです。

その判断に根拠・合理性はあるのか?

内製化することで自社のスタッフが鍛えられ、よく考えるようになり、そのノウハウは一定程度内部に定着するので、内製化自体を否定するものではありませんし、人材育成の観点から、外部の人材と伴走する「半内製化」的な対応は筆者も素晴らしいと思います。

しかし江戸幕府の各種改革のように「コストカット」一本やりの思想で、「とにかく従業員の人件費の範囲で何とかしろ」という考え方では、かえってロスになる可能性もあります。

現実的に多くの会社において見られる現象ですが、一部のやる気があり悪意のない懸命に取り組む担当者が、無料セミナーで聞きかじってきた知識を転用してマニュアルを作り、そのマニュアル作り自体が目的化して準備(リスク対策)に実効性が伴っていないような事例。また防災マニュアルやBCPが、基本を押さえることなく独自の進化を遂げてしまい、緻密に積み上げられた結果「ピサの斜塔」のように微妙に傾斜し方向性を誤っていたり(※ピサの斜塔は、まだ倒壊していないだけよいのですが)。最悪の場合は「うちの会社のBCPは存在はするけど、意味が全く分からない。誰かこの独特なBCPの意味を解読してくれ!!」と経営層が悲鳴をあげたり、という事例もあります。

「先送り大好き経営層」との戦い

リスクマネジメントの基本は、リスクに見合った対策を実施することです。その意味で、そのリスク(自然災害など)を放置した場合と、対策を実施した場合の比較をしっかりと示した上で、内製化すべきか外部の支援を仰ぐべきかを本来決定していく必要があります。

リスクマネジメントの基本は、リスクに見合った対策を実施することです。その意味で、そのリスク(自然災害など)を放置した場合と、対策を実施した場合の比較をしっかりと示した上で、内製化すべきか外部の支援を仰ぐべきかを本来決定していく必要があります。

BCPの基本方針に「人命最優先」と謳っているのだから「社長、決断してください!」と申し上げたところで、社長は社長で「そうは言っても今期の売り上げが・・・」と反論してくることは多々あります。

実はこの問題、特に上場企業においては「売り上げ重視だから仕方ない」と簡単に片付けられない状況になりつつあるのは、皆様もご認識のとおりです。「もの言う株主」が企業価値向上を迫り、株主総会を中心に活動を活発化させています。これは本来あるべき姿とも言えますが、従来型の経営者にとっては一大リスクです。さらにサスティナビリティの観点から様々なリスクを、正直に正確に開示し、必要なリスク対策を計画的に実行することもグローバルに求められており、正しく開示しなかった場合のペナルティに関する議論も活発化しています。

このような外部環境を踏まえると、やはり防災・BCPという重要経営課題については、もはや先送りすることは許されない状況と言えると思います。

確実に前進する(後退しない)取組みを!

ちょっと長めのお話になりましたので、誤解のないようにまとめておきます。ガッチリ予算を確保し、猪突猛進に進めるべきと申し上げているのではありません。大切なのは、自社の財務体力と相談しながら、まずは人の安全(防災)、次に事業継続に関する体質改善というように優先順位を付け、できればこの方針もステークホルダーに開示し、説明責任を果たしながら防災・BCPという経営課題に向き合うことが重要なのです。

そして、予算を確保し外部の資源を活用する目的のうち最も重要なのは、「自社の自走力」をつけ、また数年後に別の外部資源に依頼するなどということがないように、確実な前進を図れるような(決して後戻りしないような)方法論を有する「真の専門家」の声に傾聴することなのだと思います。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

 

以上

森総合研究所 代表・首席コンサルタント 森 健

 

 

 
           
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