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首都直下地震と防災・BCP~本社機能維持と籠城戦対応~ | KKEの 企業防災・BCPコラム

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首都直下地震と防災・BCP
~本社機能維持と籠城戦対応~

今回も、防災・BCP・リスク管理の専門家の森健さんによる連載記事をお届けします。

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季節は移ろい少しずつ秋の気配を感じるところとなりましたが、今年も猛烈な暑さに皆さん悩まされたことと思います。エアコンは日本どこでも生活必需品となり、夜間もクーラーをつけて過ごすことが多くなりました。

このような気候の極端化が進む中で、もし「首都直下地震」が発生したら・・・と考えると課題の洗い出しや対策立案は多岐にわたり気が遠くなりますが、今回のテーマはこの首都直下地震です。もし首都直下地震が発生したら、東京都を含む首都圏(首都圏地震の影響域)に本社を置く企業はどのような事態に遭遇するか、皆さんと考えてみたいと思います。

首都直下地震は「本社機能」に大きな影響を与える

一般的に、首都圏にある本社には、管理部門を中心に多くの要員が配置され、その企業の基盤となる業務を行っています。具体的には総務、人事、経営企画、広報・IRといった部門が、企業の基本機能の維持を任務としているのです。

もし首都直下地震が発生したら、本社にあるこれらの管理部門は、まずは人命最優先の対応(従業員の安全確保)を念頭に置いた各種対策を実行することになります。避難、救出・救護、安否確認、そして帰宅抑制(本社への籠城)という対応をとることになり、当面業務の継続は難しい状況になります。

その際、大阪支社など同時被災しない拠点に本社機能を一時的に代替させる(BCPの代替戦略ですね)という方針をとる企業も多く存在します。

オヤジギャグではありませんが、ご注意いただきたいのは、代替戦略はだいたい上手くいかないという点です。大阪支社と東京にある本社の要員を比較したときに、平時から本社の約3割程度の機能を大阪支社も担っていれば、代替戦略が機能する可能性はあります。しかし、このような企業のほうが実際にはレアケースです。

多くの企業は、代替戦略よりも「現地復旧戦略」をより優先して採用すべきなのですが、意外と「代替戦略のみ」の状態になって思考停止に陥っているケースもまだありますので、ご注意いただきたいと思います。

電力と安全な建屋の確保が命運を分ける

本社機能の維持についても、また発災後3日間を目途に実施される帰宅抑制(本社籠城戦)についても、キィになるのは「電力の確保」です。

都心部の瀟洒なオフィスビルは、窓が全く無かったり、開いても少しだけというケースも多く、平時は良いですが、災害時に停電となったときには室内の温度が上がります。特に夏の場合は帰宅抑制を実施することがかえって安全配慮義務違反となる可能性も出てきます。また災害直後の初動対応から、業務を再開する事業継続対応へのスムーズな移行についても電力の確保なくしては実現することは難しいでしょう。

また、地震直後に一旦建屋の外に避難し、その後余震が継続する中、建屋内に再入構できるかどうかの判断も非常に難しいと考えられています。

特に本社機能がある拠点には管理系の部門が配置されている反面、工場を有するメーカーであっても本社には技術部門の担当者は少ないことが多くあります。仮に配置されていても「建屋の再入構の可否」を判断しうる建築系の技術者の場合は、予めこれを想定して配置しない限り被災後に確保することは難しいと思われます。

同時に、首都直下地震が発生した直後に建屋の中に戻るためには、建屋の被害を迅速に判断するような方法論も必要です。技術者が確保できたとしても、再入構の判断基準を予め設定しておき、かつ、被災状況を迅速に集約する手順を構築しておかなければ、実質的に再入構の決断を下すことは困難でしょう。

首都直下地震への備えは、3日分の備蓄だけで良いよいというものではありません。首都直下地震が発生した際に「自分たちの会社に何が起きるのか」を正しく想定し、具体的な準備事項を整理し、必要なコストをかけて備えておくことが重要です。その際に電力の問題と建屋への再入構の問題は重要な要素となることでしょう。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

 

以上

森総合研究所 代表・首席コンサルタント 森 健

 

 

 
           
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