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【BCP基礎講座④】 BCPとサプライチェーン~サプライヤーとのコミュニケーション強化~ | KKEの 企業防災・BCPコラム

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【BCP基礎講座④】 BCPとサプライチェーン~サプライヤーとのコミュニケーション強化~

BCP(事業継続計画)については、特にメーカーやティア1企業については、計画策定から一定期間が経過し、BCPの見直しやその実効性向上に議論の中心が移行しています。この実効性向上の議論の中で特に重要な点が、サプライチェーンに関する問題で、その中心はメーカーやティア1企業の、自社サプライヤーに対するBCP強化の取組みにあります。今回はこの点について概観していきたいと思います。

変化するサプライヤー対策

これまでメーカーやティア1企業は、サプライヤー(ティア2企業以降)との関係が元請け・下請けの関係にあることから、多くの場合、要請・要求型のコミュニケーションがとられてきました。具体的には、サプライヤーを集めた会議で防災・BCPに関する取り組み強化を要請したり、また年1回程度のペースでBCPに関するアンケートを依頼したりという取組みがなされてきました。

これは筆者の感覚知ではありますが、BCP策定の進展とともに、今、一部の業界ではこのスタイル・関係性が劇的に変化してきたように感じています。

具体的には「コラボレーション型」とでもいうべきでしょうか。コミュニケーションの取り方が変化してきており、BCPという共通の話題、自然災害という共通のリスクをテーマにした、協働型の取組みが進展してきていると感じています。しかも、これらの取組みはこれまでメーカー主導であったものが、最近はティア1企業主導でティア2企業以降を巻き込んでなされるようになってきたのは非常に喜ばしい状況であると思います。

サプライヤーに対して、単にBCPの取組み要請をするだけではなく、防災・BCPに関する基礎知識やノウハウを提供しつつ「一緒にBCPを策定し強化して行きしょう!」というスタンスの企業が増えつつあるということです。サプライヤー向けにBCPの研修を実施するなどのインプット機会を増やしてくことは非常に良い取組みであると思います。

BCPに関するアンケートについても変化の兆しが見えます。これまでのBCPアンケートは、メーカーやティア1企業側が、各種雛形に沿って帳票を作成し、年1回程度アンケートを実施、担当部門である調達・購買部門内部でのみ共有されていました。

しかし最近は、アンケート内容に自社独自の調査項目を追記したり、アンケート結果についてもサプライヤー全体と個社別で分析をしたりするなどして、アンケート結果を有効活用しようと創意工夫するメーカーやティア1企業が増加したように感じています。

サプライヤーとともに歩む姿勢を強調する

メーカーやティア1企業にとって、サプライヤーは非常に近い存在です。事業視点で言えば一体と考えていいと思います。しかしその反面、あくまでも別法人・別会社ですから、防災・BCPの取組み強化についても、常に相手(サプライヤー)への敬意がきちんと伝わることが重要で、かつてのような上から目線のコミュニケーションは当然NGで、一緒に問題解決をしていこうという前向きでフラットな姿勢が重要です。取組み自体がポジティブな取組みであるからといって、相手に対して「親切の押し売り」のようにならない態度と配慮が必要なのです。

そして同時に注意が必要なのは、サプライヤー企業の業務負荷の問題です。業界により差異はありますが、概ねサプライチェーンの先端に近づくほど企業規模が小さくなり、新たな業務が加わることへの抵抗感も大きくなります。よって常にサプライヤー企業の業務負荷に配慮し、取り組む時期や、サプライヤー企業自身が取り組むべき業務範囲についても最小化を心がけるという方向で進めることが求められると思います。

メーカーやティア1企業がサプライヤー企業にBCP強化を依頼する場合は、理想的には対面の会議を設定し(コロナ禍においてはオンライン会議でしょうか)、その依頼の趣旨を丁寧に説明し、できる限りサプライヤー企業の特に経営層に納得感を持っていただいてからスタートすることが望ましいのではないでしょうか。逆に、メール1本で依頼するようなぞんざいな依頼手法であれば、サプライヤー企業側の真摯な協力を得られなくなるというリスクも発生してしまう点に注意が必要です。

サプライヤー同士の「切磋琢磨」の場の創出

さらに別の視点からは、サプライヤー企業相互の切磋琢磨というか、ともに学ぶ場の創出も重要であると考えます。例えば、BCPの策定に関してサプライヤー企業で研究会や勉強会を立ち上げて、定期的に情報交換をし、お互いに良き相談相手となりつつ、自社のBCPを策定したり、サプライヤー企業全体でBCPのモデルや業界としてのガイドラインの策定を試みるなどの取組みは非常に有用です。実はこれらの取組みは、自動車部品業界では既に活発に実施されていて、大きな成果も出ており、他の業界にもぜひ参考にして頂ければと考えています。

この点、経団連も2014年2月18日付けの「企業間のBCP/BCM連携の強化に向けて」の中で、「企業は、グループ会社と連携し、サプライヤーへの働きかけ、協働の取り組みを深化させる必要がある。具体的には、サプライヤーの情報を把握するとともに、BCP/BCMの目標等を共有する等して、サプライヤーに取り組みを促すことが求められる。その際、生産拠点の複数化やサプライチェーンの各段階における適正な在庫の確保、優先して復旧すべき品目の明確化等を意識して、取り組みを進めることが有用である。あわせて、サプライヤーとの連携による訓練の実施や、とりわけ、自主的な取り組みを行うことが難しい中小規模の事業者に対し、事業活動の継続性強化や同業他社との連携・協働に向けた支援・情報提供を適宜実施することを検討すべきである。」というメッセージを発信しているところです。

このような取組みを業界ごとに推進していくことで、防災・BCPのサプライチェーン全体の強化が進み、メーカーやティア1企業とサプライヤー企業群の双方にとってWIN-WINになるのではないかと考えています。

 

森総合研究所代表・首席コンサルタント 森 健

 
           
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