
今回も、防災・BCP・リスク管理の専門家の森健さんによる連載記事をお届けします。
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防災・BCPに関する取組みについては、他の全社的取組みと同様に、事務局を担当するのはベテラン従業員の方が多いように感じます。
確かに防災・BCPに関する取組みは、サプライチェーン全体を俯瞰で見る取組みですので「実戦経験」が必要なことは理解します。しかし人材育成という視点で考えると、特定の層(特にベテラン層)に偏った布陣となり、後継者育成が疎かになったり、防災・BCPに関する取組みそのものが「属人化」してしまったりするリスクにも配慮する必要があるのではないでしょうか。
事務局に必要なスキル
防災・BCPの担当部署(事務局)に必要なスキルを考えてみましょう。
一見、物凄い経験が必要な印象を持つかもしれませんね。しかし実際の事務局業務は、あるときは経営層と、またあるときは工場の方々など各事業部門の皆さんと、手に手を取って進める必要があります。
そのためには「コミュニケーション能力」が高いことは必須で、実はこれは経験だけでなく、日々どのようなスタンスで他者と接してきたかが問われます。具体的には、ベテランであろうが、若手であろうが、コミュニケーション能力の高い者はそれぞれに一定数存在し、そのような方こそ事務局には適任と思います。
理想的には、仮に専属ではなく兼務であっても、各年齢層のエース級従業員を募って事務局を構成し、活発に議論し、お互い切磋琢磨して事業継続の取組みを進めることが、同時に若手にとっては人材育成につながっていきます。
あえてもう一つ付言するなら「論理的思考回路」も必要です。経験の少なさを補うものは「論理的思考」ですし、ベテランであってもボトルネック→ボトルネック対策に論理がなければ有効な対策を立案することは難しくなるでしょう。
若手を配置した場合の教育効果
現実の社内では、事務局に若手を配置することは勇気が必要かもしれません。しかし、思い切って配置したときの効果も考えて頂くと、皆さんの決断の後押しとなると思います。
防災・BCPの事務局を担当すると、まず全社的な視点が涵養されます。しかも実務に即した視点なので、その内容は充実しているはずです。各部門と対話を重ね、徹底的に課題を洗出し、ともにボトルネック対策を立案していく過程で、組織ごと・立場ごとの相違も感じるでしょうし、これらを取りまとめて経営に報告する際には「経営と現場」の温度差を感じることもあると思います。このような過程を通じて、将来経営層となった場合に必要な、全社的視点が養われていくのです。
さらに、事務局業務の中で、一つのボトルネック対策を立案し実施するまでの一連の過程を通じて、自社の「意思決定の仕組み」も学ぶができます。公式な意思決定ルートのほかに、自社独自の「不文律」や他社とは異なる「統制環境」も感じながら、いかに具体化していくかの挑戦を通じて、組織の仕組みを理解していくでしょう。
さらに、このように組織の仕組みを理解し、各種ボトルネック対策を経営層にまで提案した場合も、必ずしも正しい提案が全て採用されるわけではなく、一定の「経営判断」という意思が入ることで、実行できる対策が絞り込まれてしまうことも多々あります。この判断過程を若手のうちに体感することが、将来、自分自身が幹部社員に登用された場合の判断・決断の基礎となっていくのです。
防災・BCPも「属人化」するリスクにさらされています。ベテラン社員が必要という固定観念を一部捨てて、自社の若手を抜擢することで、上記の効果を目指してみてはいかがでしょうか。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
以上
