今回も、防災・BCP・リスク管理の専門家の森健さんによる連載記事をお届けします。
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ご無沙汰しております。
今回、貴社のBCP責任者として執行役員に昇任されたとのこと、誠におめでとうございます。一友人として心から嬉しく思っております。
BCPについて正面から向き合い、全ての責任を負うこととなりましたね。そんな貴方に、BCP業界の先輩の一人として、少し生意気ですがアドバイスとエールを贈りたいと思います。
基本に立ち戻って、現在の環境をまず把握する
貴方もよくご認識のとおり、わが国は内も外も課題だらけです。国際競争力は年々低下し、少子高齢化も進展し、大手企業においても人材獲得に常時苦戦するという時代になってしまいました。また昨年8月と今年1月では日向灘で強い地震が起きています。風水害も激甚化の一途を辿っています。
一方、多くの企業は内にも課題を抱えています。ガバナンス不全、ハラスメントの頻発、コンプライアンの低下、マネジメント崩壊そしてBCPの形骸化です。特にBCPについて注意が必要なのは、真にその価値が試されるのは「災害時」なので、平時において「出来ています!」と偽装しやすいという点です。監査役や内部監査部門はそれぞれ全力で職責を果たしてくれていますが、まだまだBCPそのものを深く理解し、真の課題を指摘するレベルに達するには時間がかかります。一方、BCPの推進部署も、大丈夫だと思い込んでいるケースが非常に多い。腕利きコンサルタントであれば「BCPの目次を見ただけで」あるいは「ホームページのガバナンス体制を見ただけで」その会社の危うさは分かるのですが、そのようなコンサルは皆無で、多くのコンサルは高級筆記用具と化しているのは貴方もご認識のとおりです。
まず貴方は、「自社のBCPは本当に機能するのか」という良い意味での危機意識の下、現状把握から始めるべきと思います。
全てはつながっている
同時に、真に機能するBCPを策定しようと考えるならば、BCPの世界だけで完結しようとしないでください。特に執行役員という立場から会社や自社グループ全体を俯瞰で見て、自社の様々な全社的課題との関連性を整理しつつ、体質改善と実効性ある準備を進めていくのことが、責任者である貴方に求められていると思います。
BCPが機能していない企業には、次のような共通の特徴があることにも注意が必要です。まず、そもそもBCP以前の問題として、マネジメントが機能していない場合が多いのです。無免許運転の管理職が自己流でマネジメントし、有能でまじめな部下ほど転職サイトに登録しているようなケースもあります。まず第一に、平時のマネジメントを機能させることが大切です。
次に全社的リスクマネジメントとの関係性も重要です。特にサスティナビリティに関する取組要請が高まる中で、何を軸として整理すべきか混沌としているのがこのリスクマネジメントの問題です。二酸化炭素に過度に気をとられ、事業の存続に向けての努力が疎かになってはいけません。巨大災害というリスクをコントロールするための有用な手段としてBCPを選択し、その品質を平時から継続的に高めることも経営なのです。サスティナビリティを軸とせずに、リスマネジメントを軸とし、サスティナビリティは一つのリスクと位置付けたほうが企業経営にはフィットすると私は思います。
さらに、意外に思われるかもしれませんが、ハラスメント防止やコンプライアンの浸透も大切にしてください。パワハラ上司の多いブラック企業は、リスク情報が経営層に集まってきませんし、有為の人材は意見具申せず、転職の途を選ぶでしょう。組織や職場を対話中心の、人権を大切にする民主主義的なものにしてください。施設管理における重要なコンプライアンス事項として「安全配慮義務」の問題がある点も、決して忘れないでください。従業員の安全を守ることこそ、事業継続のスタートラインであると先般のコロナ禍で我々は学んだはずです。
そうです。今貴方は心の中で「そうか、結局は体質改善なのか」という言葉が浮かんだことでしょう。まさに「災害に強い健全な組織としてどうあるべきか」を考え、あるべき姿に向けて体質改善を継続できる体制を整えることが重要です。テンプレートの穴埋めをすることは事業継続ではないのです。
担当者へのあたたかい支援を
最後に、あなたの管掌する部門のメンバーへ、あたたかいフォローを日頃からするようにお願いしておきます。貴方の言葉で、メンバーを鼓舞し続けてください。「変化を恐れるな」、「危機は起きると思って準備せよ」など。そして常にこの言葉で締めくくって頂くことをおすすめします。
「全ての責任は、私がとる」
そのようなリーダーに、メンバーは協力をしてくださるのだと思います。
今年、来年、近い将来・・・
巨大地震や想定しないような危機が起きるかもしれません。貴方のBCPの取組みは、ある意味「時間との戦い」かもしれません。しかし、諦めない人間に必ず勝利の女神は微笑みます。くれぐれも健康に気を付けて、頑張ってください。
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今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
以上