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企業防災・BCPの現状と課題 | KKEの 企業防災・BCPコラム

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企業防災・BCPの現状と課題

5月に入り、各企業の防災・BCPのご担当者の皆さんにとっては、風水害対策もそろそろ気になり始める頃かと思います。また地震活動も活発な状況が継続しており、コロナ禍である以上は「複合災害」化することを前提とした備えも引き続き重要です。

2020年は企業防災・BCPについて「コロナ禍」という強烈な外圧の下、一定程度進捗をみた年でした。しかしその一方で、防災・BCPに関する各企業の取組みが形骸化しているのではないかと感じる場面も数多くありました。コロナ禍により防災・BCP対策の真贋(しんがん=本物か偽物か)が明らかになり、実効性のない取組みについては一瞬にしてその弱点が顕在化してしまったのが2020年ではなかったでしょうか。

そこで今回は、意図的に企業防災・BCPの本質に返り、企業防災・BCPの真の実務課題について、いくつかの視点から整理したいと思います。

課題1:BCP等各種計画の形骸化

最も大きな課題は、BCPなどの各種計画の形骸化です。形骸化の症状は千差万別ですが、共通して言えるのは、各種公的ガイドラインへの「過度の依存」があるという点でしょう。

具体的には、自社のBCPをよく読んでみると、内閣府の「事業継続ガイドライン」や中小企業庁、経済産業省などのガイドラインからの引用に多くの頁を割いているケースがありますが、これではBCPというよりは「資料集」であって、災害時には到底活用できるものではありません。

BCP(事業継続計画)は、その名のとおり「事業」に関する計画ですから、自社事業の災害時における弱点と、これを補強するための各種事前対策や発災後の対応項目について多くの頁を割くべきで、公的ガイドラインからの引用は最小限度に止めるべきです。しかし現場への関心と理解が薄いコンサルに依頼すると、公的ガイドラインのいわば受け売り的な内容になってしまうのです。大切なのは「公的ガイドライン」を参考にして「自社としてはどうするか」であるのに、この点が主客転倒している状態です。

同様に「テンプレート」を埋めることを重視したBCP策定スタイルもリスクが大きいと感じています。そもそもテンプレートは、あくまでも最大公約数で作成されていますし、さらに隠れたリスクとしては「誤った理解に基づくテンプレート」を活用してしまうと、自社(自社グループ会社)全体に、あたかもウイルスが侵入し感染拡大をするように、問題のあるBCPテンプレートが蔓延(まんえん)してしまうという点にも注意が必要です。

課題2:BCPの自社(自社グループ)内への不浸透

次の大きな課題は、BCPが自社の社内になかなか浸透しないという点です。

これにはいくつか要因があり、例えば、BCPの第1版を策定後「社内説明会」は開催したものの、以降はそのまま社内PR等もぜすに放置してしまった。あるいは策定後の維持管理(定期的な見直し)が出来ていない。あるいは経営層がBCPに関して積極的な関与を見せず、管理職間に危機意識が醸成されない。そもそも「資料集」的な内容で自社事業に関する記述が少なく浸透させるための前提を欠く、といったことが主な要因となっています。

BCPは第1版を策定した瞬間が真のスタートです。策定過程を通じて明確になった自社の課題・弱点に対して「事前対策」を整理し、その進捗管理を「委員会活動」を通じて実施し、また新たな知見や組織改編への対応なども加味し、少なくとも年1回以上は経営層へのレビューを重ねて日々深化させていくことが本来は求められています。

課題3:法務・コンプライアンス視点の欠如

BCPは災害時の計画ですので「緊急事態への対応」であるというイメージが強く、緊急事態であれば法務・コンプライアンス視点の考慮は少し劣後させても問題ないであろうという誤解がありますが、これが第3の課題です。

実はこの点については、コロナ禍で少し是正されたかなと感じています。パンデミック下において「従業員に対する安全配慮義務」をどう履行すべきかや、取締役の善管注意義務や経営判断の原則との関係から、一定程度BCPに関する認識が高まりを見せました。

これはパンデミック以外の各種災害場面においても重要な視点で、例えば首都直下地震発生時には従業員の帰宅抑制が実施されますが、この場合にも「非常時だから単に自社施設内で待機させればいいのだ」ということではなく、施設内待機中の従業員の安全をどのように確保すべきか、あるいはどのような場合に帰宅を許可していいのかという点について、自社としての基本方針と具体策の準備が必要です。例えばこれが大型商業施設の場合では、外部からの帰宅困難者を一定数受け入れることも想定され、施設管理者としての法的責務も加わり、一般企業に比してさらに法務・コンプライアンスに関する事前検討が重要になってきます。

筆者は、企業防災・BCPの課題について共通している点は「現場への関心や意識の欠如・不足」ではないかと考えています。もちろん「理論」も必要ですし、ガイドラインがあるおかげで一定程度進捗をみたことも事実です。しかしこれにより別の課題・リスクも生じてしまっているのではないでしょうか。

企業防災・BCPについては「現場視点」と「実務家視点」を強化するといういわば「アップデート」が求められています。そのためにこのコラムでは6月以降も様々な情報発信と議論の喚起を引き続き起こしていきたいと思います。

 

森総合研究所代表・首席コンサルタント 森 健

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