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首都直下地震とBCP① ~東日本大震災の東京とは異なる事態が発生する~ | KKEの 企業防災・BCPコラム

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首都直下地震とBCP①
 ~東日本大震災の東京とは異なる事態が発生する~

大谷翔平選手の大活躍が世界の人々に勇気を与え続けている一方で、日本国内では、連日報道される企業・芸能界・政界等の不祥事が夏の不快指数をさらに上げている昨今ですが、防災・BCPの担当者は、常に論理的に、高い倫理観をもって、かつ組織内の相互理解を大切にしながら、自然災害という目前のリスクに立ち向かう必要があります。

首都直下地震対策についても、既存の思い込みや、有識者の振り回す一般論に影響されることなく、実務家としての矜持(きょうじ)をもって、常に実務の視点から、各企業の課題解決につながるような対策を立案していくことが重要です。

 

首都直下地震の「被害想定」の意味を改めて考える

首都直下地震に関する被害想定については、これまでも継続的に見直しがされてきましたが、例えばインフラ関係の公的被害想定については、政府・地方公共団体から以下のように示されています。

電力については、発災直後は約5割の地域で停電し、発災後1週間以上は不安定な状況が続く。

通信については、固定電話・携帯電話とも、輻輳のため、通話規制が継続し、メールも遅配が生じる可能性がある。

上下水道については都区部で約5割が断水し約1割で下水道の使用ができなくなるのではないか。

交通に関しても、地下鉄は1週間、私鉄・在来線は1か月程度、開通までに時間を要す。

主要路線の道路啓開には、少なくとも数日を要し、その後、緊急交通路として使用することになるので、当面一般車両の通行は難しい。主要路線以外の一般道はガレキや放置車両、さらに主要路線を避けて通行する一般車両による大渋滞・交通麻痺が発生し深刻な状況となる・・・。

上記は公的な被害想定の一部ですが、これらの被害想定は、政府や地方公共団体にとっては、災害応急対策やその後の復旧・復興対策を考えるヒントとなり、自組織の業務継続計画(BCP)を検討する前提となるものです。

 

首都直下地震の被害想定の自社化は十分か?

各企業が防災・BCPに関する各種対策を立案するにあたっては、この公的な被害想定だけでは不十分で、被害想定の情報を前提に、さらに一歩具体化する必要があります。
これを筆者は「被害想定の自社化」と呼んでいますが、自社としてどのような被害が発生し、どのような事態や局面に見舞われるかを想定しておく必要があるのです。

例えば、次のようなレベルまで被害想定を深掘りし、具体化し、リスク・課題を特定していくことが、真に実効性ある対策の立案につながります。

【例1】

首都直下地震が発生すると一斉帰宅抑制を実施し、従業員を社屋内に籠城させる必要がある。しかし真夏に地震が発生した場合はどうだろうか。停電で、かつ社屋には自家発電設備もない。
さらに瀟洒(しょうしゃ)な外観のこのビルは、窓がほとんど開かない構造になっているので、熱中症が多発するリスクがあるのではないか・・・

【例2】

首都直下地震発生後、断続的に強い余震が継続発生している。しかし3日経過したので、そろそろ従業員を一旦帰宅させようと思う。交通機関の麻痺は続いているが、3日経過したので問題ないだろう。
ただ・・・専門家が「移動中の被災リスクが高い」と言っていたのが気にかかるが。

【例3】

今年もまた台風が首都圏を襲った。荒川もかなり危険な状態になっているようだ。そういえば、2019年の台風19号の際に、風雨の激しい最中に、東京で震度4の地震があったなぁ。
もし台風の最中に首都直下地震が発生したら、どうすればいいのだろう。河川の堤防は大丈夫だろうか。浸水被害が発生した際に、江東区にある従業員寮は孤立するのではないか。

以上のように、できるだけ、具体的に、自社の立場に立って、どのような局面が考えられるかという「練習問題」や「例題」を増やして起きましょう。

実際に災害が発生してからの対応では、ついつい場当たり的になり、その場その場で最善の戦術を考えることが限界で、根本的な問題解決に至らない可能性があります。平時から被害想定の深掘りを心がけておきましょう。

 

「成功体験」に潜む危険性

最後にもう一つ付言しておきたいと思います。
来るべき首都直下地震は、かつて我々が経験した「東日本大震災時の東京」とは局面が異なります。首都直下地震では、東京そのものが被災地になるのです。

この認識は非常に重要で、東日本大震災時の関東圏における成功体験・対応体験は、そのまま次の首都直下地震には通用しない可能性があると考えておくことが必要です。

筆者は、コンサルタントとしてBCP実効性向上の活動をする中で、時々、「3.11のときに~という対応で成功したから、首都直下地震でも大丈夫だろう」という言葉を聞くことがあります。これは「正常化の偏見」にほかならず、論理的な根拠が薄弱な可能性もあるのです。

実務家としては、常に具体化を心がけ、論理的に予測し、現在から未来に向かって最良の決断を積み重ねていくことが大切なのです。

 

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

 

以上

森総合研究所 代表・首席コンサルタント 森 健

 
           
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