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防災・BCP新任担当者へのメッセージ~勇気をもって自己検証からスタートを~ | KKEの 企業防災・BCPコラム

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防災・BCP新任担当者へのメッセージ~勇気をもって自己検証からスタートを~

多くの組織・職場で人事異動が行われる4月。防災・BCPを所管する総務部やリスク管理室等の部署でも、メンバー交代があったことと思います。
今回は、この4月から新たに防災・BCPをご担当されることになった方々を念頭に、どのような心構えで業務に臨み、来るべき実戦に備えるかについてお話させて頂きたいと思います。

企業の防災・BCPの現状

まず、これから取組む防災・BCPに関する環境や、各社共通の現状についてお話したいと思います。
一言で申し上げると、今、企業の防災・BCPは、特に日本において、大きな過渡期を迎えています。

グローバル社会は劇的に変化しています。しかも、世界各地で起きた劇的な変化が、国内の企業や自治体の経営を直撃するような時代です。

しかし残念ながら、企業も自治体も「変化に対応する力」が弱くなっています。各種機関の研究データを待つまでもなく、官民ともに「変化に対応し競争する力」がかなり弱くなっています。この点について、様々な議論があり、有識者から提言等がなされていますが、多くは表層的な議論で、本質をついていません。

競争力が低下する本質的原因は「競争していない」あるいは「競争環境に問題があること」なのではないでしょうか。各種データを偽装・改竄したり、他社のパクリをしたり、閉鎖的な業界構造であったり、随意契約を優先させる・・・。このようなことの繰り返しでは、企業の真の競争力は何億年たっても向上しません。一時的な利益保持やや短絡的な判断でフェアな競争環境を遠ざけがちなのが、今の日本の現状であり、これが競争力低下を誘発しているような気がいたします。

一方、企業を巡るリスク・危機は、頻度・影響度ともに激化の一途を辿っています。地震・風水害から、レアメタル、エネルギー資源、ミサイル対応まで、際限なく守備範囲も広がり、これまでの防災・BCPの考え方は限界を迎えつつあります。

にもかかわらず現実には、未だに実効性のない計画(役に立たない状態の計画)が社内にひっそりと休眠状態で存在し、対外的には「対応できている」とリスク情報を開示しているにもかかわらず、いざ訓練を実施すると「木っ端みじん」になるという組織も散見されています。まだこれに気づいている組織は反転攻勢が可能ですが、最悪の場合には「わが社は完璧だ、出来ている」と信じ込んでいて、でも外部の専門家からすると「機能しない」と判定せざるを得ない事例も存在しています。

まず自社の防災計画やBCPの現状を正しく把握しよう!

では、どのように各社は対応すべきなのでしょうか。

この問いに関する答えは比較的明快で、まずは、自社の防災計画やBCP(事業継続計画)を使用して、図上訓練(シミュレーション訓練)を実施してみることをお勧めします。

訓練でできないことは実戦ではできない、という言葉がありますが、自社の計画類が訓練ですら機能しない場合は、早急に根本的な見直しを実施する必要があります。

ここで注意したいのは、防災計画やBCP(事業継続計画)などの計画・マニュアル類は、平時は多少の不具合が潜在的にあっても全く問題にならないことが多く、いざ災害が発生してこれを活用しようとするときに、同計画に内在するバグが明らかになり、自社、場合によっては顧客を含む自社のステークホルダーに多大な損害を与え、最終的には経営層に対する訴訟の要因にもなりかねない重要な要素なのだという点です。

訓練と共に、自社のレベル感を試すためには、次の質問を関係者に投げかけるのもよいでしょう。
『防災とBCPの違いは何ですか?』
この質問に答えられない者が多い場合は、自社の防災やBCPの取組みがかなり深刻な状況にある点に注意が必要です。

勇気をもって自己検証、そして防災・BCPの再起動を!

皆さんがこれから防災・BCPについて学ぼうとする場合、現在は幸い様々な選択肢がありますので、この点は非常によいことだと思います。

政府・自治体や各業界団体などが様々な形で「ガイドライン」を策定し開示しており、例えば内閣府が策定した「事業継続ガイドライン」は、改訂を重ね、最新版(令和5年3月版)はかなり品質が高いものとなっています。またコロナ禍の影響で普及したオンラインセミナーという便利な選択肢によって、全国どこにいても、有識者の知見に触れる機会は多くなっています。これらの選択肢を活用して、基礎知識を確認することは比較的容易になっていると思います。

その一方で、皆さんをミスリードする資料やセミナーもないかというと、そんなことはないので、この点、少しだけ注意が必要です。例えばその講演者については、略歴が具体的に開示されているか、実務経験がありその分野について「語る資格があるか」の判断などもこまめにしておく必要もあります。

また知識偏重にならないような意識も重要と思います。話は変わりますが、例えば「ハラスメントの定義を覚えること」と「ハラスメントのない良い職場を現実に構築すること」は別問題であるのと同様に、防災・BCPにおいても、最終的には知識・ノウハウだけではなく、皆さんの「実務上の問題解決能力」が求められることとなる点に注意が必要です。

そしてその問題解決の壮大な旅に船出する第一歩が、「危機管理」という考え方・思考回路だと私は考えています。

危機管理という言葉のワードメーカーは、先年逝去された佐々淳行先生ですが、佐々先生の名著「危機管理のノウハウ」を座右の書とされることも、皆さんにお勧めしたいと思います。例えば、佐々先生はその著作の中で、「常に最悪に備えよ」、「悲観的に準備して、楽観的に対処せよ」など様々な危機管理的な心構えを説いていらっしゃいます。とても参考になると思います。

せっかくですから、私からも、危機管理的な心構えを最後に一つ申し上げておきたいと思います。それは「災害が本当に起きると思って準備しましょう」ということです。

「もし明日、首都直下地震が発生したら・・・」あるいは「来月、南海トラフ巨大地震が発生したときにこのBCPは機能するだろうか・・・」という平時の危機意識は、目前の大きな課題に取り組む皆さんにとって、実務を前進させるための何よりのエネルギーになると思います。

 

皆さん。

もし、自社の防災計画やBCPが休眠状態だったら、勇気を出して「再起動」のスイッチを押しましょう。そして全社一丸となって、来るべき国難級の災害に立ち向かう準備を始めましょう。

そのためには、防災・BCPに取り組む以前の問題として、自社の変化に対応する力や競争力向上も重要で、これを同時に向上させていく必要もあるではないだろうかと私は常々考えております。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

以上

森総合研究所 代表・首席コンサルタント 森 健

 
           
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