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【BCP実践講座⑤】防災・BCPと安全配慮義務 | KKEの 企業防災・BCPコラム

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【BCP実践講座⑤】防災・BCPと安全配慮義務

筆者は4月に事業年度が始まる組織とのご縁が深かったこともあり、3月となると「年度末だなぁ」と感じてしまいます。2021年度の本コラムも皆様のおかげをもちまして、今回で一区切りです。この場をお借りして御礼申し上げるとともに、4月以降もよろしくお願いいたします。
さて、その年度末にあたって、いつもと少し違う視点のお話をしたいと思います。
今回のテーマは「安全配慮義務」、さらに広い視点で換言すれば法務・コンプライアンスの視点です。

本当は重要な法務・コンプライアンスの視点

昔話になりますが、筆者は2003年度に静岡県庁に勤務した経験があります(市職員として県庁に出向)。その際、県職員のマニュアルを策定したり、訓練のシナリオを企画する業務を担当しましたが、ふと気づいたのは「法務・コンプライアンス」の視点が、防災分野の中にはまだまだ浸透していないなぁということです。
これは自治体の話ですが、例えば特定の市町村が機能喪失した場合には災害対策基本法の規定により県がその代行をするとか、避難者が自身の自家用車を施錠して路肩に乗り捨てたとしても、道路啓開を大義名分にブルドーザーで蹴散らすような真似は「財産権」の観点からしてはいけないという認識が、不十分だったように感じています。
幸い、当時の県の上長の方々や同僚の面々は、この点の感性が優れており、当方の意見を十二分に採用して頂き、訓練のシナリオに「法的判断が求められる課題」を挿入したり、策定したマニュアル中においてコンプライアンスの視点が加味されたのを記憶しています。

防災・BCP上の最大のコンプライアンス事項

そして、防災・BCP分野において、法務・コンプライアンス上最も配意すべきテーマのひとつが「安全配慮義務」の問題です。
安全配慮義務というと、元々は信義則を根拠とし判例上確立されてきた概念ですが、近年は明文規定も一定程度置かれるようになってきました。この安全配慮義務の内容については、様々な論考に解説をお譲りするとし、今日は実務上問題となってきた(同時に今後も問題となりうる場面)を概観していきたいと思います。
防災上の観点ですと、地震が発生してブロック塀が倒壊した場合や、従業員の帰宅抑制の可否の問題(帰宅を許可するか否かの判断場面)でも問題になりますし、東日本大震災では「津波避難訴訟」において主要論点となっています。
またBCP(事業継続計画、業務継続計画)の観点では、例えばコロナ禍第6波を受け、強引に2交代制のシフトを組んだ場合の従業員への業務負荷を適切にコントロールしなかった場合には問題となりうるでしょうし、自治体においては住民向けの防災備蓄に過度に偏り「職員向け」のそれを怠った場合には、一方で業務継続を指示しておきながら必要な措置をしていないことを理由に、この安全配慮義務が論点となる可能性を否定できません。
このように「人の安全」が求められる様々な災害場面で、その反面として安全配慮義務が問題になる可能性があるのです。

「不作為」となりやすいことが最大のリスク

そしてこの安全配慮義務の厄介な点は、普段はあまり目立たず問題にもならず、災害や事件・事故が起きた時に鮮明化するという点です。
安全配慮義務は文字通り、安全に配慮し何らかの作為義務(対応義務)が求められているのに、これを怠っていた(不作為・不対応だった)ことが問題となります。そしてこの問題が顕在化するのは、平時ではなく、有事つまり発災時になってしまうことが多いという現実を知っていただく必要があります。
何らかの作為、具体的には防災対策のことですが、これには多くの場合一定の投資(コスト)がかかります。予算確保が困難なことを理由に作為・対応を先延ばしすること自体が「安全配慮義務違反」の状態を継続していることになるのですが、このこと自体は平時は気づきにくく、有事特に実際に被害が発生してから「対応しておくべきだった」と後悔しては遅いのだという点が最大のリスク要因です。
静観すること、何もしないことも「リスク」になりうるのだという認識を、改めて組織横断的に共有すべきなのでしょう。

上場企業の情報開示、自治体の情報公開という課題・リスクを前に

2021年6月にコーポレートガバナンス・コードが改訂され、上場企業はリスク対応に関して開示の要請がさらに高まり、有価証券報告書と任意の開示書類を戦略的に組み合わせて、ステークホルダーに説明する責任が課されています。
一方自治体では、その業務の性質上、住民に対して常に高い「説明責任」が求められていると同時に、保有する情報は原則として「情報公開請求」の対象となり、その際の原則は公開なのです。
官民を問わず、法務・コンプライアンスの視点を加味して申し上げると、それぞれのステークホルダーに対して1)対策の実効性、2)対策内容の積極的な開示の両面から、納得感のある説明が求められることとなります。単に「対策がんばっています」というだけでは不十分で、実践でも有効な対策を、さぼる(不作為)ことなく実行し、さらに分かりやすく説明していくことが重要なのです。そして、その中核テーマのひとつに「安全配慮義務」の問題があるのです。

以上

森総合研究所 代表・首席コンサルタント 森 健

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