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【BCP基礎講座②】 被害想定の活用方法 | KKEの 企業防災・BCPコラム

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【BCP基礎講座②】 被害想定の活用方法

今回は、防災・BCPを考える上で非常に重要な「被害想定」について考えてみたいと思います。

被害想定は、地震、風水害といった自然災害だけではなく、例えば感染症のパンデミックにおいても被害想定(例えば欠勤率の問題など)を事前に検討しておくことは非常に重要です。地震に関しては各自治体の防災・危機管理部門のホームページにその地域の被害想定が掲載されていますし、風水害の最も有名な被害想定的資料は「ハザードマップ」であると思います。しかし、企業の防災・BCPについて、これらの情報で十分なのか、あるいは被害想定に関する情報をどのように活用すればよいかについては、まだまだ十二分に議論がされていないように感じています。

本稿では、被害想定の活用方法を軸に、自社の防災・BCP強化のためにどのような視点が必要かについて考えてまいります。

1:被害想定に基づいて「事前対策」を考える

例えば地震災害の場合、直下型地震については、原因となる活断層ごとに被害想定がなされています。例えば死者数、負傷者数、建物の全壊・半壊数などについて、自治体の地域防災計画の一内容として算出され公表され、これらの情報をベースに各企業では「〇〇地震」が発生した場合の「地域全体への影響や社会状況」をイメージし、自社のビジネスにどのような影響がでるかを整理していると思います。

ここで重要な視点は、被害想定をどのような目的で活用するのかということです。自社の防災・BCP強化のために被害想定を活用するのであれば、最も重要な視点は事前対策、つまり自社に発生する被害を想定し、これを抑止・軽減するために被害想定を活用するのだという点です。

どのような強さの地震が発生するのか、自社構内を含む周辺地域に液状化現象は起きるのか、土砂災害の心配はないのか、建屋の耐震性は本当に大丈夫なのかなどなど、被害を具体的にイメージしながら、自社の防災・BCP上の弱点を洗い出し、事前にハード・ソフトの両面から対策を実施していくことがとても重要です。防災・BCPに関する活動の大半はこのような「事前対策」つまり準備にあるといえ、どのような準備をするかについて重要な示唆をもたらすのが被害想定なのです。

2:被害想定はシナリオ型で整理しよう

この被害想定を十二分に活用するために次の重要な視点は「シナリオ型」での整理を心がけるという点にあると思います。

実際に地震が発生したとき、地震動(地面が揺れる)という自然現象を起点に、建物倒壊や火災などの2次的な事象の発生、公共交通機関その他の社会インフラへの影響、人的・物的被害の発生というように「原因・結果」の因果関係の連鎖により、発災後の事態が推移していくことになります。

もちろん、このシナリオを完全に予測することは不可能です。しかし「基本的に大きな流れはこのようになる」という予測は可能なのです。そこで、いわば学校の教科書の「基本問題」や「例題」にあたるような「基本的な被害シナリオ」を用意し、その模範解答つまり対応戦略を発災前に出来る限り用意し、これに基づいて訓練を繰り返し、災害発生後は、基本問題・例題による訓練で培った対応力・判断力をベースに、現実の応用問題について「対策本部」を中心に臨機応変に危機対処していくことが重要なのです。

3:技術的根拠のある被害想定

被害想定のうち重要な部分を占める施設・建屋の被害想定に関しては、次の点にご注意頂きたいと思います。

施設・建屋に関して「耐震性がある」ということは、その建屋に被害が発生しないという意味ではなく、その建屋に一定程度の強度はあるものの、実際には内部に被害は発生し、一方で建屋内にいる人々に被害が及ばないであろう(あるいは及びにくいであろう)という推定が働くということを意味しています。したがって、耐震性があることが必ずしも「事業継続」まで保証しているものではないという点に注意が必要です。

実は、この課題を解決する技術は既に存在し、①地震動、②建屋の建つ地盤の揺れやすさ、③建屋の周期(構造に由来する揺れ方)を元にシミュレーションし、建屋内でどのような被害が発生するかについて予測することが可能で、この技術を活用すれば、例えば建屋内のインフラ被害が発生しやすい箇所や崩壊しやすいのは何階なのかなど、技術的根拠に基づく詳細かつ具体的な予測が可能です。

実はこのシミュレーションの技術を用いてより詳細で実践的な被害想定をしておくということが、災害時の従業員に対する「安全配慮義務」の問題とも関連しています。

従業員に対する安全配慮義務を企業が十分履行していたか否かの判断ポイントとして「予見可能性」の議論がありますが、例えば工場が倒壊し人的被害が発生することが予見できたか否かが、従業員に対する安全配慮義務履行の有無の判断に強く関連しているのです。

もし財務体力が十分にある企業で、シミュレーション技術を活用して被害を具体的に想定していれば、人的被害の発生を「予見」し「回避」できたにもかかわらず、これを実行しなかった場合、発災後の訴訟でこの「不作為・不対応」自体が大きな論点になる可能性があるという点にも注目頂きたいと思います。

森総合研究所代表・首席コンサルタント 森 健

 
           
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