地震時室内被害の可視化
コンサルティング 導入事例
帝人ファーマ株式会社 様
帝人ファーマ株式会社
東京研究センター
(右から)
事務室 ESH 班長
洲脇 悟志氏
同副センター長
村上 敏信氏
『実験室の耐震を考えましょう』。
揺れをリアルに再現した
シミュレーション映像で、
この呼びかけが説得力を
持って伝わるようになりました。
帝人ファーマは、薬品類なども多く扱う実験室内の地震対策に力を入れてきた。だが、ネックになったのは、「この実験器具は重くて動かないので、そのままで大丈夫だろう」といった現場の意識の希薄さ。そこで、構造計画研究所(KKE)とともに取り組んだのが、「地震被害の可視化」である。そのプロジェクトの概要、成果について、研究所で防災の指揮を執る東京研究センター副センター長の村上敏信氏、同事務室ESH 班長の洲脇悟志氏に話をうかがった。
目次
設備の耐震化の基準がなく、対策に納得感が得られない
もともと実験室内部の「耐震化」について、悩みを抱えられていたわけですね
当研究所ができて50年余り、敷地内には新旧の建物がありますが、それぞれ耐震、免震の処置が講じられています。でも、実際に働く人たちの安全を確保するためには、研究室、実験室内部で、大地震に見舞われた際にも、例えば機器類の転倒や落下でけがをしたり、避難路が塞がれたりすることのないよう、室内の対策を実行しなければなりません。
ところが、普通のオフィス家具などと違って、多くの実験器具には、「このくらいの重量ならば、こういう形で地震対策を」というような基準がありません。それもあって、「耐震、耐震」と言っても、イマイチ説得力がない。「今度入ったこの機械は、固定する必要がありますか?」と聞かれても、私たち自身が正確に返答するのが難しい、という現実がありました。
そんなとき、2017年に耐震に関するセミナーでKKEさんの担当の方と出会い、その後「何かサポートすることはありますか?」という連絡をいただいたのをきっかけに、今回の取り組みが始まったわけです。
村上敏信氏
プロジェクトの概要について、あらためてお聞かせください
実は、5年ほど前、別のある企業に実験室内の棚などの什器や実験機器の固定状況調査をしてもらったことがあります。ただ、例えば「震度6強の揺れが来たら備品はこの程度動く可能性があるので、ここまで対策を打ちましょう」といった一定の指標のようなものが欲しかった私たちからすると、結果はちょっと細かすぎた。そこで、KKEさんには、とにかくみんなの腑に落ちて、対策が横展開しやすいソリューションを、とお願いしたのです。
具体的には、まずは構造計算などに基づいて建物がどう揺れるのかという耐震性評価を行いました。この段階で、室内の対策をそんなに厳しくやる必要がないという結論になれば、そこから先にお金をかける必要はありませんから。
しかし、やはり震度6クラスの地震になると現状では問題あり、ということが分かりました。そこで、どうやって研究所のみなさんにその事実を伝えていくのかというのが、次のステップの課題に。提案されたのが、対策を打たずに大地震に見舞われたら実験室内はどんな状態になるのか、というシミュレーション映像の作成です。
映像で「動くはずのないものが動く」ことに納得
架空の実験室をCGで作り、実際の設備、器具を置いて「揺らした」のですね。映像の出来栄えはいかがでしたか?
実験器具の重量はもちろん、設置している床の材質なども実際に見てもらい、摩擦係数も設定して揺れの挙動を計算し、再現してもらいました。途中で器具類のレイアウトを変えてみたりして作り込み、最後は揺れでビン類が触れ合う音や、窓の外の風景までも表現した「作品」になりました。
論より証拠ではないですけど、とにかく目で見てもらうことの効果の大きさを、あらためて感じましたね。想定したのは震度6弱~6強レベルの地震でしたが、人が押してもびくともしないディープフリーザーのような重いものが揺れて倒れる状況は、普段使っているものだけに衝撃的。ちなみにVRにも対応可能ということでしたので、KKEさんの機器を借りて視聴することもしました。私も見ましたが、さらにリアルで怖いくらいの迫力でしたよ。
地震前
地震発生中
地震後
映像自体が、半年もかからずに納品されたというスピードにも驚きました。そのことも含めて、今回の成果物には非常に満足しています。この研究所には、パートや契約社員も含めて400名ほどが働いていますが、これまでに会議などで直接見てもらった人が100名くらい。会社のイントラネットでも公開していますから、すでに相当数が見ているはずです。
全社的な防災意識を高め、現場が対策を考えるツールに
洲脇悟志氏
その結果、何か変化はありましたか?
当研究所では、月に1回、二十数名の毎回異なるメンバーで、安全巡視といって各部署の防災対策のチェックに回っています。メンバーには必ず映像を見てもらっているのですが、耐震に対する指摘の内容が、以前に比べると具体的になったように感じています。指摘されたほうも、前は「本当に必要なのですか?」と私たちのところに問い合わせがあったりしたのですが、今はほとんどなくなりました。少しずつ、意識の変化は進んでいるのかな、と思います。
今回のプロジェクトの最大の目的は、研究員個々に耐震の意識を高めてもらい、現場の対策を自主的に考える機運をつくり出すことでした。そのツールとしては、非常にクオリティの高いものができた。今後は、並行して進めてきた研究所にふさわしい防災訓練のシナリオ作りといった取り組みも含めて、トータルな地震対策にこの成果をどう生かしていくのかに、知恵を絞る必要があると考えています。
付け加えれば、帝人グループ全体の会議でシミュレーション映像を紹介したところ、高い関心が寄せられました。当社グループには工場も大きなオフィスもあります。そういったところでも有用なツールになりうると、個人的には感じています。
最後に、当社に対する注文があれば
提供いただいたソリューションについては満足しているのですが、お話しいただくまで、あのような形で個別現場のリアルな室内被害シミュレーション映像が作れるとは思いもしませんでした。もう少し、対外的にアピールしたほうがいいのではないでしょうか。
ぜひPRにご協力ください。本日はありがとうございました。
取材日:2019年3月
帝人ファーマ株式会社について
設立:2002年
本社所在地:千代田区霞が関
ホームページ:
https://www.teijin-pharma.co.jp/
※記載されている会社名、製品名などの固有名詞は、各社の商標又は登録商標です。