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シミュレーション技術を工場の地震対策に(1) | KKEの 企業防災・BCPコラム

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シミュレーション技術を工場の地震対策に(1)

前回は、工場の耐震補強を検討する際によくある問題についてご紹介しました。

その中で、Is値の利点と問題点について解説しました。Is値は非常に分かりやすく明快な基準であるという利点がある一方で、具体的な地震に対する具体的な被害推定ができないため、復旧計画に使えないという問題があります。さらに、制震などの新しい補強技術が適用できないことも大きな問題です。

では、鉄骨造(S造)の工場の地震対策には、どんな方法が有効なのでしょうか?
私たちはこの問題の解決策として、シミュレーション技術を活用することを提案しています。その考え方とはどういうものなのでしょうか? 2回にわたってご紹介します。

耐震改修促進法から30年、技術の発展と普及

新耐震設計法の施行から40年以上、耐震改修促進法からも30年近くが経過しています。法律のベースとなる技術が確立してからを考えると40〜50年程度は経過しており、当然、その間にさまざまな新しい技術が使用されるようになりました。これらの新しい技術は主に重要構造物である原子力発電所や超高層ビルの設計で始まったやり方でしたが、徐々に一般の建物にも適用できる時代になってきました。私たちは重要構造物や超高層ビルだけではなく、工場のように規模が大きいのに確立した工法がない建物にも適用できると考えています。

地震研究の進展

新しい技術は、コンピューターの性能が格段に上がったことを背景に発展・普及してきましたが、地震研究についても大きな進展が見られます。現在は、40〜50年前に比べて地震動の把握、地震発生の規模や頻度、震源からの距離や場所が相当に分かってきました。また震源と対象建物の間の地震動の伝達経路もおおよそ分かってきました。さらに建物が建っている近くの地盤の増幅、建物自体の力学的特性もよく分かってきています。いや、よく分かってきたというより、シミュレーションで計算できるところまできたと言えます。

 

地震発生から揺れが建物に伝わるまでの評価技術の発展・普及

地震発生から揺れが建物に伝わるまでの評価技術の発展・普及

 

また、地震研究推進本部(地震防災対策特別措置法に基づき設置された文部科学省の特別の機関)では、下の図のようにホームページ上で地震の活動状況を公開しています。このような情報を公表できるぐらいに知見として整理されてきています。これは40年前では考えられなかったことです。

主要な活断層の長期評価
主要な活断層の長期評価

 

出典:地震研究推進本部「主要活断層の評価結果」

地震波と建物が共振したときに被害が起きる

一般的に固い地盤からやわらかい地盤に地震波が伝達すると、地震動の増幅という現象が起きます。最近では地震による地盤や建物の関係も適切に評価できるようになりました。

 

表層地盤による地震波の増幅

 

地震波自体の分析と建物の精密なモデル化ができて、両者の共振現象が把握できるようになると、シミュレーションによる設計ができるようになります。

共振現象とは、建物の被害が想定以上に大きくなる現象です。下のグラフは共振曲線と呼ばれる曲線です。縦軸は地面の揺れに対して建物の揺れがどれだけ大きくなるかを示し、横軸は建物の固有周期と地震波の周期が一致しているかどうかの比を示しています。

建物の固有周期とは、それぞれの建物が持つ揺れやすい周期のことです。具体的には何秒というものです。超高層ビルのような建物は2~3秒のゆっくりとした周期で揺れています。低い建物は、もっと短い0.5~0.6秒の短い周期で揺れています。

共振曲線

 

建物の固有周期と地震波の周期、両者の周期が一致すると、ものすごく大きな揺れになるというのが共振現象です。時々テレビでも「共振現象の怖さ」を紹介しています。まさに共振現象によって建物の揺れが大きくなることが地震被害をもたらしています。

実際に共振をしてしまうと何十倍もの揺れになります。横軸が “1”というのは建物の揺れと地面の揺れが同じ、“0”というのはものすごく固いガチガチの建物が建っているという状況です。建物と地面が一緒に揺れていると増幅はしませんので“0”です。原子力発電所のような堅牢な建物は増幅しないようになっています。原子力発電所をコンクリートの塊のような建物にする理由はこのためで、大きな共振現象が起きないように、とにかく力によってねじ伏せるという設計思想なのです。

長周期建物と呼ばれる超高層ビルや免震建物は、長い周期で設計することで地震の力をかわすという方法です。長周期になれば、これも“0”に近づいてきます。通常は、どこまでいっても“0”にはならないのですが、無限に“0”に近づけば、宙に浮いたような建物になり“0”だという意味です。超高層ビルが思ったほど地震力を受けないというのは、このような共振の理論の上に成り立つ話です。このことから建物だけでなく地震波の分析も重要だということが分かるかと思います。

また減衰が大きくなると共振しても揺れを小さく抑えることができるという関係もあります。たとえば大きな減衰を持った建物であれば、共振しても揺れを小さく抑えられます。減衰とは、振動が起きた時に振動のエネルギーを吸収し揺れが小さくなっていくような現象のことです。

これらの物理現象を活用して工場の地震対策を立てていくというのが基本的な考え方です。

まとめ

今回はIs値では解決できない問題をシミュレーション技術によって解決していくという私たちの基本的な考え方についてご紹介しました。内容をまとめると以下になります。

●地震研究の進展やコンピュータの性能向上によりシミュレーションによる設計が可能となり、重要構造物や超高層ビルでは広く普及している

●シミュレーションは重要構造物や超高層ビルだけではなく、工場のように規模が大きいにも関わらず確立した工法がない建物にも適用することが可能であり、工場の耐震補強の問題解決につながる可能性がある

●地震と建物の共振や、減衰などの物理現象をシミュレーションで再現し地震対策に活かすというのが基本的な考え方である

 

次回は、この考え方についてもう少し詳しくご紹介します。

 

参考文献
地震研究推進本部「主要活断層の評価結果」

構造計画研究所 企業防災チーム

 

 

 
           
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