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地震の基礎知識(1)建物の揺れは震度では表せない | KKEの 企業防災・BCPコラム

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地震の基礎知識(1)
建物の揺れは震度では表せない


工場の地震対策を検討する際には、どういった地震を想定し、どのような揺れの強さを考えておくべきか、正しく把握しておく必要があります。これが正しく把握できていないと、いくら細かく地震対策を検討しても、得られる結果は根拠のない間違ったものになってしまいます。

そこで今回は、工場の地震対策を検討する際に知っておくべき地震の基礎について解説します。

 

震度はどのように決まるのか?

地震の揺れの大きさを表す指標として震度があります。震度はどのように判断し決定しているかご存じでしょうか?

 

下の表は現在の震度に関するものではなく、1996年3月まで、つまり約30年前までの震度の対応表です。
30年前までは、現在とは違う方法で震度を決めていました。兵庫県南部地震が発生した頃の震度は0~7の8段階で、現在の6弱や6強という震度階級は存在しませんでした。震度0~5は人間が揺れの強さを感覚的に判断し、震度6、震度7については、家屋の倒壊率が30%を超えるか否か、という被害の状況を踏まえて決定していました。

 

震度0~5は人の感覚で判断するので、判断する人によってどうしてもばらつきが生じます。また、震度6、震度7では被害状況を確認してから決定するので、震度の発表までに時間を要するという課題がありました。兵庫県南部地震の時も震度6や震度7の発表に、かなり時間を要しました。

 

30年前までの震度の対応表

震度を知るー基礎知識とその活用(気象庁監修)」を元に筆者作成

 

兵庫県南部地震の後、1996年4月以降は人が判断するのではなく、地震計とコンピューターによる自動計測により震度を判定するようになりました。このため、現在の震度は計測震度と呼ばれています。

 

 

建物の揺れは「震度」では表せない

ところで、地震計とコンピューターによって自動計算された計測震度の大きさが建物の被害の大きさと密接な関連があればよいのですが、必ずしもそうではありません。

計測震度の導入以降に発生した鳥取県西部地震や芸予地震、岩手・宮城内陸地震や東北地方大平沖地震などにおいて、震度が6強、6弱と計測された地域において建物の被害がほとんどない、あっても軽微だったというケースが少なからず発生しています。

現在の計測震度は、30年前と同様に人が感じる揺れの強さとは良い相関を示すのですが、建物被害の大きさとの相関は強くはないのです。

それはなぜなのでしょうか。建物はそれぞれ揺れやすい振動の周期(固有周期)を持っていて、地震による揺れ(地震動と呼びます)の中にその固有周期の波が多くある場合、共振して建物は大きく揺れ、被害が生じます。
固有周期は、短い・長いと表現します。基本的に、建物の高さが高ければ高いほど固有周期は長くなります。建物が硬いほど固有周期は短く、柔らかいほど長くなります。

 


建物の揺れやすい周期(固有周期)

 

地震動の中に、建物が大きく揺れる周期の波がどれだけ入っているかが被害の大きさを知る上での手がかりなのですが、計測震度という指標はその手がかりの把握が全くできないのです。

建物の揺れを表す指標~加速度応答スペクトル

では、どういった指標が役立つのでしょうか?そこで出てくるのが加速度応答スペクトルという指標です。ここから加速度応答スペクトルについて説明しますが、少し専門的な話になります。

地震計で観測される地震動は、南北方向、東西方向、上下方向の地表面の時々刻々の揺れの大きさ(加速度の時刻歴)です。加速度の時刻歴を積分すれば、速度や変位の時刻歴が求まります。それらの最大値は、最大加速度や最大速度、最大変位と呼びます。
加速度応答スペクトルは、加速度の時刻歴から求めることができます。加速度応答スペクトルを見ると、その地震動が建物の揺れやすい周期(固有周期)の成分の波をどの程度持っているかがわかります。

 


地震動と応答スペクトル

 

下の図のように、揺れやすい周期(固有周期)が異なる建物がいくつかあったとします。その建物に地震動を入力してみます。そうすると、それぞれの建物はそれぞれ異なる揺れ方をします。固有周期がT1の建物が揺れる大きさの最大値をSA・T1、固有周期がT2の建物が揺れる大きさの最大値をSA・T2というように、地震動を入力したときにそれぞれの固有周期を持つ建物がどの程度、揺れるかをプロットしたものが加速度応答スペクトルです。

 


加速度応答スペクトル

 

地震動の加速度応答スペクトルを見れば、この固有周期を持つ建物は大きく揺れる、あまり揺れないといった予測ができるのです。

 

まとめ

地震の揺れの大きさを表す指標である震度の特徴と、加速度応答スペクトルについてご紹介しました。内容をまとめると以下のようになります。

・震度は、1996年3月までは人の感覚と家屋の被害状況に基づいて判断していたが、現在は地震計とコンピューターによって自動計算されている。
・震度は、人が感じる揺れの強さとは良い相関を示すが、建物の揺れ(被害)の大きさとの相関は強くない。
・建物の揺れの大きさを表す指標として加速度応答スペクトルがある。加速度応答スペクトルを見ることで、建物がどれくらい揺れるか予測することができる。

次回は、地震対策で想定すべき地震についてご紹介します。

参考文献:
・震度を知るー基礎知識とその活用(気象庁監修)

 

構造計画研究所 企業防災チーム

 
           
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