地震による工場内の設備被害(2)
シミュレーションによる地震対策の事例
前回は、工場内の設備被害と、その予測方法についてご紹介しました。設備被害の予測方法には簡易式による方法と、より詳細なシミュレーションによる方法がありますが、後者のシミュレーションでは、物の落下や周囲の壁との衝突といった複雑な現象を評価できるため、より実態に即した被害予測が可能です。
そこで今回は、設備の地震対策をシミュレーションを用いて検討したお客様の事例をご紹介します。
シミュレーションによる地震対策の事例(1) 倒れにくい本棚
家具の製造販売をされている愛知株式会社様では、倒れにくい本棚を開発されています。その本棚が、いったいどのくらい倒れにくいのか、一緒に検討させていただいた事例です。
耐震性能を検討した書架
※愛知株式会社様より受注した耐震性能評価業務
上の図のような一般的な書架(Aタイプ)と倒れにくい書架(Bタイプ)の2つのタイプについて、地震時の挙動をシミュレーションにより検討しました。
シミュレーションの結果を以下に示します。
倍率というのは、地震波の入力倍率です。東日本大震災の時、筑波で観測された地震波をそのまま等倍、1.5倍、2倍、3倍と、どんどん大きくしていった地震の揺れを、Aタイプ、Bタイプの書架にそれぞれ4パターン入力して検討しています。
東日本大震災当時の筑波で観測された地震波では、実際に筑波の大学図書館が壊滅的な状況になりましたが、同様のシミュレーションを行うと本棚が将棋倒しになり全てのラックが倒れてしまいました。
書架のシミュレーション事例(動画)
Bタイプ(倒れにくい本棚)は、強い地震によって滑りますが、物が落ちたり、倒れたりということはありませんでした。Aタイプ(一般的な本棚)は、垂直でシンプルな形状になっていますので、本はどんどんずれてきて落ちます。
これが例えば電気製品を作る工場の製品や材料だと想像すると、同じ地震でも被害が全然違うことが分かります。隣の工場が無被害だったのに、自分のところの工場は物が落ちてしまい、ほとんど破棄する必要が出てきたというような事態にもなりかねません。
今回の検討結果をまとめると下の表になります。
Aタイプの一般的な書架は東日本大震災時の揺れで本が落下し、2倍くらいの揺れで本体が転倒に至るという結果となり、倒れにくいBタイプのほうは、東日本大震災の2倍の揺れでも本が落下せず、3倍の揺れがきても本体は転倒しないという結果で、愛知様が開発されたBタイプの本棚の耐震性能を定量的に示すことができました。
書架の転倒シミュレーション結果のまとめ
シミュレーションによる地震対策の事例(2) 自動倉庫ラック
次に自動倉庫メーカのお客様と一緒に対策を検討した事例をご紹介します。
東日本大震災では、自動倉庫の商品が落ちて事業継続に支障が生じるという被害が多発しました。そこで商品が落ちない対策を自動倉庫メーカ様と検討しました。検討結果をもとに段数を削減したりオイルダンパーを設置するなどいくつか対策を提案し採用されています。
自動倉庫ラックのシミュレーション事例(動画)
このようにシミュレーション技術は、建物だけではなく建物内設備の地震対策を検討する際にも活用されています。
まとめ
建物内設備の地震対策にシミュレーションを活用した事例をご紹介しました。内容をまとめると以下のようになります。
●シミュレーションは建物だけではなく、建物内設備の被害推定や地震対策にも活用されている。
●シミュレーションで設備の耐震性能を定量的に評価することで、説得力のある根拠を示すことができる。
●シミュレーションでは、さまざまなパターンの地震対策を検討できるため、合理的で納得性の高い対策を立案するのに有効である。
構造計画研究所 企業防災チーム